
売っているのは、中小企業の「営業の型」だ。
アイドマ・ホールディングスの看板は、営業支援の「セールスプラットフォーム」だ。顧客は、営業の人を雇いたくても雇えない中小企業が中心になる。会社はまず、AIが抽出したアプローチリストでテストマーケティングをやる。どのターゲットに、どんな切り口で声をかければ商談になるか。そこを小さく試して、うまくいったやり方だけを残す。料理でいえば、いきなり本番のフルコースを出す前に、試食でレシピを決める商売だ。決まったレシピは、自社の営業DXツール「Sales Crowd」で回す。リスト作りからアプローチ、商談管理までを一気通貫でやる。
金の取り方は、支援の「ユニット」だ。クラウドワーカーのチームを顧客の営業や業務にあてがい、月額で対価をもらう。第3四半期の説明資料では、顧客層ごとの価格帯として、中堅企業で月50万円×13ヶ月、小規模企業層で月20〜30万円×13ヶ月といったパッケージが示されている。人を1人雇うより安い金額で、営業のチームごと借りられる。そこが売り文句になる。読む物差しは、受注件数、受注から売上への転換率、受注から支援開始までのリードタイムの3つだ。注文を受けたのに料理が出てこない店と同じで、受注の数がそのまま売上にはならない。
2本目の柱は人材支援だ。在宅ワーク特化の求人サイト「ママワークス」やフルリモート求人の「ReWorks」を持ち、クラウドワーカーのチームを顧客の社内に立ち上げる。通期説明の書き起こしでは、月額20万円程度のコンサルティングフィーで運用する形が説明されている。営業支援の顧客に、業務支援のユニットを重ねて売る。3本目は経営支援で、営業や業務で培ったソリューションを軸に、経営の意思決定そのものを支える。ほかに、子会社のM&AやCXOバンク、マーケメディアといった周辺事業もある。
新しい入口も増えている。営業や業務の基盤が整っていない顧客向けの低価格パッケージ「営業基盤構築」は、2026年8月期の第4四半期から提供を始め、第4四半期だけで82件の受注があり、受注率は通常のユニット受注の約2倍にあたる20%程度だった、と会社は説明している。スポットでクラウドワーカーを使う「スポットワークス」や営業特化の「セールスワークス」は、2027年8月期のドアノック商材としてテスト運用を始めた。社員を顧客先に常駐させる「セールスファーム」は、2027年8月期末までに300名の採用、常駐210名程度、紹介30名を計画している。
数字の並びは、売上が伸びて利益率が落ちた型
売上高は止まっていない。2024年8月期106億1,800万円、2025年8月期132億6,900万円、2026年8月期142億9,500万円だ。2025年8月期は前期比25.0%増、2026年8月期は同7.7%増だった。
利益の顔は違う。営業利益は2024年8月期24億6,800万円、2025年8月期31億200万円、2026年8月期24億6,300万円。2025年8月期は同25.7%増だったが、2026年8月期は同20.6%減に転じた。営業利益率は、単純計算で2024年8月期23.2%、2025年8月期23.4%、2026年8月期17.2%になる。売上が増えたのに、利益率が6ポイントほど落ちた。経常利益も2025年8月期31億9,300万円から2026年8月期24億7,000万円へ、同22.6%減った。
第3四半期までの累計で見ると、ねじれはもっとはっきりする。2026年8月期の第3四半期累計は、売上高108億5,200万円で前年同期比12.6%増、営業利益18億5,000万円で同19.8%減だった。売上総利益率は70.0%と前年同期の69.1%からほぼ横ばいなのに、販管費率が45.2%から52.9%へ7.7ポイント上がった。会社が挙げた理由は、貸倒引当金の上昇、4月入社の新卒採用費用を含めた人件費率の上昇、M&A関連費用などだ。
第4四半期は、単純計算で持ち直している。通期決算説明資料の第4四半期売上高は34億4,200万円で、営業利益は通期から第3四半期累計を引いた単純計算で6億1,300万円、営業利益率17.8%になる。第3四半期の営業利益3億3,000万円と比べると約85.8%増えた計算で、第3四半期に膨らんだ貸倒引当金が減ったことが効いた、と会社は説明している。
財務の形は厚い。2026年8月期末で総資産106億5,700万円、純資産78億5,900万円、自己資本比率73.7%で、前期末の66.0%から上がった。現金及び現金同等物は59億8,200万円で、営業キャッシュフローは19億5,100万円のプラスだった。自己資本当期純利益率は20.6%で、前期の28.1%から下がった。利益は減ったが、財務の土台そのものは細っていない。
配当は、まだ始まったばかりの顔をしている。会社は、前期より配当を開始し、2026年8月期も1株当たり30.00円の配当を実施予定だと第3四半期の説明資料で示している。決算短信では、2026年8月期の年間配当30円、配当性向28.6%が示され、2027年8月期の配当予想も30円、配当性向の予想は32.0%になっている。11月26日の株主総会での決議と、27日からの支払開始が予定されている。方針は、成長投資を優先しつつ、内部留保とのバランスを踏まえた安定的かつ持続的な株主還元だ。30円を株価741円で割ると、単純計算で約4.0%になり、画面の配当利回り4.02%とほぼ合う。2026年7月10日には、上限45万株・上限9億円の自己株式取得も決議している。
なぜ今、これだけ安いのか
株価は、決算の顔とは別の方向へ動いた。2026年10月14日の引け後に通期決算と2027年8月期の業績予想が出た。翌15日のみんかぶの速報は、続急落で上場来安値を更新したと伝えている。株探の速報では、2026年8月期の連結経常利益が前期比22.6%減の24億7,000万円、2027年8月期も前期比2.9%減の24億円になる見通しだとまとめられている。
2027年8月期の会社予想は、売上高140億円で前期比2.1%減、営業利益24億円で同2.6%減、純利益13億5,000万円で同13.0%減だ。営業支援の受注件数の回復による再成長を計画する一方で、人材支援は減収になる見通しだ、とみんかぶは伝えている。売上は伸びていたのに、来期は横ばいかやや後退の予想が出た。そこが売りの直接の引き金になった。
もっと大きな下落は、その前から続いていた。Finnhubの表示では、52週高値が3,255円、52週安値が740円だ。10月30日終値741円は、52週高値から単純計算で約77%安い水準になる。10月14日終値850円から15日終値767円への下落は、単純計算で9.8%安だった。決算の日の下げだけが、この銘柄の安さではない。1年かけて、期待の水準そのものが切り下がってきた。
下がった出来事の本丸は、7月10日の下方修正だ。期初予想の売上高170億円、営業利益40億円、純利益23億円、受注件数9,400件が、売上高140億円、営業利益22億円、純利益12億円、受注件数7,600件へ引き下げられた。会社が挙げた理由は2つだ。顧客層の変化による受注から売上への転換率の低下と、今期の受注件数の減少による減収インパクトだ。
転換率の話は、数字で追える。受注から支援開始までのリードタイムは、2023年8月期50.3日、2024年8月期55.7日、2025年8月期104.4日と延びていた。個人事業主・個人経営層の受注割合も、2023年8月期6.2%、2024年8月期10.1%、2025年8月期18.4%へ上がった。通期説明の書き起こしでは、通常は全体の約5%程度だった個人事業主・個人経営層の比率が約20%まで上昇した、と会社は説明している。手元資金に余裕のない顧客からの発注が増え、支援開始のタイミングで入金がもらえず、支援が始まらないケースや、途中で支援ができなくなるケースが増えた。受注はあるのに、売上にならない。未収が増え、貸倒引当金が膨らんだ。ここが2026年8月期の利益率を押し下げた芯だ。
会社は、下期から手を打った。当月受注・当月支援開始のみを受注として計上するルールの厳格化、個人事業主への前払い一括金の必須化、複数ユニットの前倒し実施だ。通期平均のリードタイムは約100日から約70日へ30日ほど短縮し、第4四半期は28日まで短縮した、と会社は説明している。第4四半期のカード決済比率は3%から18%へ、一括払い比率は14%から16%へ上がり、未着手率や未収率は第4四半期の実績で5%になった。受注の数そのものは、第4四半期1,273件で、20営業日以降の受注抑制で約780件、個人事業主・個人経営層の前払い限定で約415件の減少要因があった、と会社は説明している。数を追うのをやめて、売上になる受注だけを数える形に変えた。そこが、今回の決算の読みどころになる。
画面の割安表示は、こう読む。InvestingProの2026年11月1日朝のリストでは、現在株価741円、フェアバリュー1,248.95円、上昇余地68.55%、PER7.47倍、配当利回り4.0%、財務健全性は「とても良い」だった。決算短信の潜在株式調整後EPS101.94円で741円を割ると、単純計算で約7.3倍になり、画面の7.47倍と近い。つまり画面のPERは、前期の好調な利益ではなく、減益後の利益水準で見た数字に近い。減益後の利益で見ても、7倍台というのは、数字の上では安い部類に入る。
仮説として書くなら、市場が値切っているのは今の利益ではなく、転換率の改善が続くかどうかだ。会社は、2027年8月期の受注計画を土台に、2028年8月期の受注残高は最低でも120%以上に積み上がる見込みだと説明している。ただ、2027年8月期の予想自体は横ばいで、貸倒引当金の費用負担も保守的に見込んでいる。直った仕組みが、次の四半期でも同じ数字を出すか。そこを市場が測りかねている、という状態に近い。
リスクは、未収と人件費と受注の質に集まる
一番重いのは、未収と貸倒引当金の残り火だ。貸倒引当金の残高は、2025年8月期末の3億2,700万円から2026年8月期末の11億9,400万円へ増えた。会社自身が、2025年8月期と2026年8月期上期の影響が一定程度残ることを想定し、保守的に貸倒引当金の費用負担を見込んだ計画にしている、と説明している。第4四半期に未着手率や未収率が5%まで下がったとしても、古い受注残の影響がゼロになったわけではない。次の四半期で、貸倒引当金の費用がまた膨らむかどうか。そこが最初の確認項目になる。
次が、人件費と採用費の重さだ。第3四半期は、60名程度の純増で人件費と採用費が上がり、利益率を押し下げた。受注が戻らなければ、人件費だけが先に残る。受注の回復と人員の戦力化が、同じペースで進むかどうか。
あとは、受注の質の入れ替えが、売上に跳ね返るまでの時間だ。20営業日以内のみを受注計上するルールは、受注件数を意図的に抑える。会社は、受注から売上への転換は12ヶ月にわたって続く事業構造だ、とも説明している。今期の受注の回復が売上に反映されるのは、来期以降にずれ込む。待てるかどうかが、持ち手の側にも問われる。
自分にとっての魅力は、直った数字と小さな値段、引っかかりは横ばいの予想
自分が引かれるのは3点ある。第4四半期のリードタイム28日、カード決済比率18%、未着手率や未収率5%という、直ったことを示す数字がそろっていること。売上高そのものは142億9,500万円と、まだ増えていること。741円という株価は100株でも74,100円で、監視しながら小さく始められる大きさだということ。
引っかかるところもはっきりしている。2027年8月期の予想が売上高140億円、営業利益24億円の横ばいにとどまること。貸倒引当金の費用負担を保守的に見込んでいること。個人事業主・個人経営層向けの基盤構築が82件の受注を取ったとしても、それがユニット受注への切り替えにどれだけつながるか、まだ数字で確認できないこと。フェアバリューとの差68.55%は、画面の数字としては大きい。ただ今の自分には、その差よりも、直った仕組みが次の四半期でも同じ数字を出すかどうかの方が先に知りたい情報だ。
自分なら、いきなり大きくは持たない。次に確認する項目は2つに絞る。2027年8月期の第1四半期決算で、受注件数とリードタイム、未着手率や未収率が第4四半期の水準を保っているか。営業基盤構築の受注が、ユニット受注への切り替えとして数字に出てくるかだ。その2つが確認できるまでは、持つとしても段階に分ける。配当30円の予定は、11月の株主総会での決議が前提になる点も、頭に入れておく。
※免責:この記事はアイドマ・ホールディングス(7373)に関する情報提供を目的としたもので、投資の勧誘や売買の推奨ではありません。記事中のフェアバリューはInvestingProのモデルによる推計値であり、将来の株価や配当を保証するものではありません。業績予想を含む将来の見通しは、2026年10月14日発表の2027年8月期業績予想(売上高140億円、営業利益24億円、純利益13億5,000万円、配当予想30円)および2026年7月10日発表の2026年8月期業績予想修正に基づくもので、実際の結果と異なる場合があります。配当30円は2026年8月期の実施予定であり、2026年11月26日の株主総会での決議が前提となります。数値は記載時点の出典資料に基づいています。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。