
売っているのは、旅先のネット回線だ。
ビジョンの看板は「グローバルWiFi」。海外へ行く人に、現地で使えるWi-Fiルーターを貸し出す。200以上の国と地域をカバーし、1日のレンタル料金は500円から。国内携帯会社の定額割引と比べると最大89.9%のコストメリットがある、と会社は説明している。訪日外国人向けには「NINJA WiFi」、法人向けには社内に常備する「グローバルWiFi for Biz」がある。空港のカウンターで受け取って、帰国したら返す。旅行カバンにモバイルバッテリーを1台足す感覚に近い。
金の取り方は、レンタル料と通信料の差額が軸になる。クラウドWi-Fiという仕組みで、電波の強い通信会社のSIMへ自動で切り替える。SIMの容量を使い切る形で原価を抑える。読む物差しは3つだ。出国者数、グローバルWiFiの売上と利益率、そして情報通信サービス事業のストック収益の伸び。旅の数が増えても、1件あたりの取り分が細れば売上は伸びない。逆に件数が伸び悩んでも、単価と効率で利益が残る期がある。今期の中間期はまさに後者の顔だった。
2本目の柱は情報通信サービス事業だ。新設法人を狙って、固定通信や移動体通信、OA機器、Webサイト制作、経理BPOまで売る。新規設立法人の約10社に1社と取引がある計算、と会社は説明している。一度つながった顧客に、別の商材を重ねて売る。家賃のように毎月入るストック収益を積み上げる商売だ。3本目はグランピング・ツーリズム事業で、山中湖とこしかの温泉の2施設を運営し、2027年初旬には淡路島の開業を予定している。
数字の並びは、売上が伸びて利益率も上がった型
売上高は止まっていない。2022年12月期254億8,700万円、2023年12月期318億700万円、2024年12月期355億2,800万円、2025年12月期390億1,200万円。営業利益も24億1,400万円、42億8,000万円、53億6,500万円、64億6,500万円と増えた。2025年12月期の営業利益率は、単純計算で16.6%になる。
セグメントで見ると、2025年12月期のグローバルWiFi事業は売上高210億1,100万円、セグメント利益63億5,100万円。情報通信サービス事業は売上高164億600万円、セグメント利益17億4,600万円。グランピング・ツーリズム事業は売上高15億8,800万円、セグメント利益1億7,600万円。全部門で過去最高益、と会社は説明している。
2026年12月期の中間期も、売上高191億3,700万円で前年同期比2.4%増、営業利益30億5,100万円で同5.1%増、ともに過去最高を更新した。営業利益率は15.5%から15.9%へ上がった。売上総利益率は55.4%から54.4%へ下がったが、販管費率を39.9%から38.4%へ抑えた。
中身はねじれている。グローバルWiFi事業は売上高92億5,900万円で前年同期比5.0%減なのに、セグメント利益は28億5,000万円で同2.1%増、利益率は30.8%まで上がった。情報通信サービス事業は売上高87億1,900万円で同7.2%増、セグメント利益10億3,900万円で同9.3%増。グランピング・ツーリズム事業は売上高11億5,400万円で同43.8%増、セグメント利益1億900万円で同73.2%増。旅の柱が細り、ほかの2本が補った中間期だ。
財務の形は軽くない、むしろ厚い。2026年6月末で総資産292億6,600万円、純資産203億2,700万円、自己資本比率68.0%で前期末から1.2ポイント下がった。現金及び預金にあたる現預金は109億5,500万円で、2025年12月末の135億6,000万円から減った。長短借入金合計は16億7,900万円。2025年12月期のROEは23.6%と、ブリッジレポートは前期末実績として示している。自己資本で稼ぐ力は、数字の上では高い。
配当は、ここ2年で急に顔を変えた。1株配当は2022年12月期0円、2023年12月期0円、2024年12月期27円、2025年12月期50円。2026年12月期は中間22円、期末29円の年間51円の予想だ。予想EPS103.64円で割ると、配当性向は単純計算で49.2%になる。会社は、配当性向50%とDOE8%のいずれか高い金額を目安にする方針を掲げている。51円という予想は、その方針に沿った水準だ。
なぜ今、これだけ安いのか
株価は、決算の顔とは別の方向へ動いた。52週高値は2026年2月10日の1,343円、52週安値は2026年7月1日の949円。9月24日終値は1,072円だった。そこから今朝のInvestingProの画面では973円まで下がっている。2月の高値からは、単純計算で27.6%ほど安い。9月24日からでも9.2%ほど下がった。
下がった出来事として、まず中間期の会社予想未達がある。中間期の会社予想は売上高199億8,000万円、営業利益32億4,000万円だった。実績は売上高で4.2%下、営業利益で5.8%下だった。過去最高の更新と、会社自身の予想への未達は両立する。市場が後者に目を向けたとしても不思議はない。
次が、主力の減収だ。中間期の日本人出国者数は前年同期比5.1%増の694万人と、高い水準で推移した。人が増えたのに、グローバルWiFiの売上は5.0%減った。会社は、利益重視の「量から質」への戦略転換を進めている、と説明している。中東情勢の緊迫化に伴う国際渡航動向の影響も挙げている。販促費の最適化で利益は増えた。ただ、件数を追わない方針が、売上にどう跳ね返るかは、まだ途中経過でしかない。
画面の割安表示は、こう読む。InvestingProの2026年10月30日朝のリストでは、現在株価973円、フェアバリュー1,612.2円、上昇余地65.69%、PER10.33倍、配当利回り5.2%、財務健全性は「とても良い」だった。ここでPERを自分で割り直すと、話は大きく変わらない。2025年12月期のEPS92.12円で973円を割ると、単純計算で約10.6倍。2026年12月期の予想EPS103.64円で割ると、単純計算で約9.4倍。画面の10.33倍と近い。配当も、予想51円を973円で割ると単純計算で約5.2%で、画面と合う。前期の数字でしか安く見えない銘柄とは、ここが違う。割安の看板が、利益の水準とかけ離れているわけではない。
仮説として書くなら、市場が値切っているのは今の利益ではなく、旅の回復の読み方だ。会社の2026年12月期の通期予想は、売上高420億円で前期比7.7%増、営業利益75億円で同16.0%増、純利益51億円で同12.8%増。いずれも過去最高の更新を見込む。前提は為替1ドル155円、海外渡航の回復率を2019年比75%(会社の目標は80%)と置いている。2019年比で見ると、日本からの出国者数は2025年で年間約1,473万人と、2019年の約2,008万人にはまだ届いていない。訪日外国人は2025年に約4,268万人と2019年の約3,188万人を上回ったが、ビジョンの主力は日本人の海外渡航に寄っている。回復率75%という前提が、そのまま届くかどうか。そこを市場が測りかねている、という状態に近い。
リスクは、旅の数とeSIMの置き換えに集まる
一番重いのは、旅の数の振れだ。物価高騰や円安、燃油サーチャージの高止まりは、出国者数の伸びを鈍らせる逆風として会社自身が挙げている。中東情勢のような外部の出来事も、渡航動向に直結する。グローバルWiFiの売上が、人の数に引っ張られる構造は変わっていない。
次が、eSIMへの置き換えだ。会社は「World eSIM」を海外販売の強化策に挙げ、セブ拠点を24時間の多言語ハブとして育てようとしている。ルーターを借りる手間を省けるeSIMが広がれば、レンタルの件数そのものが細る可能性がある。会社にとっては同じ顧客に別の形で売る話だが、1件あたりの取り分がルーターと同じとは限らない。eSIMの売上が、ルーターの減収をどれだけ補うかは、開示の数字ではまだ読み切れない。
あとは先行投資の回収だ。ニューヨーク、World eSIM、経理BPOの3つに、会社は先行投資を続けている。2025年12月期にはこの3つで合計12億7,400万円の売上を上げた、と会社は説明している。投資が先に出て、売上が後からついてくる形だ。2028年12月期の目標は売上高500億円、営業利益100億円。遠い目標ほど、途中の進捗を1つずつ確かめるしかない。
自分にとっての魅力は、利益率と配当の形、引っかかりは主力の減収
自分が引かれるのは3点ある。自己資本比率68.0%と現預金109億5,500万円の厚み。2025年12月期のROE23.6%という稼ぐ力。973円という株価は100株でも10万円に届かず、監視しながら小さく始められる大きさだということ。
引っかかるところもはっきりしている。出国者数が増えた中間期に、主力のグローバルWiFiが5.0%減収だったこと。中間期の会社予想に届かなかったこと。通期予想の営業利益75億円に対する中間期の進捗率は、単純計算で40.7%にとどまること。下期に巻き返す組み立てとはいえ、確認はこれからになる。
自分なら、いきなり大きくは持たない。次に確認する項目は2つに絞る。次の四半期決算で、グローバルWiFiの売上が増収に戻っているか。World eSIMの売上が、資料の中でどれだけ具体的な数字として出てくるかだ。その2つが確認できるまでは、持つとしても段階に分ける。フェアバリューとの差65.69%は、画面の数字としては大きい。ただ今の自分には、その差よりも、出国者数が増えた期に主力の売上が減った理由が、戦略の転換で説明し切れるかどうかの方が先に知りたい情報だ。
※免責:この記事はビジョン(9416)に関する情報提供を目的としたもので、投資の勧誘や売買の推奨ではありません。記事中のフェアバリューはInvestingProのモデルによる推計値であり、将来の株価や配当を保証するものではありません。業績予想を含む将来の見通しは、2026年12月期中間期決算時点の前提(為替1ドル155円、海外渡航回復率2019年比75%など)に基づくもので、実際の結果と異なる場合があります。数値は記載時点の出典資料に基づいています。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。