
売っているのは、夜の2時間だ。
WOWOWの本体は、有料放送と配信の月額課金だ。衛星放送の3チャンネルとWOWOWオンデマンドで、映画、ドラマ、音楽ライブ、サッカーのチャンピオンズリーグやラグビーといったスポーツを流す。月額はスタンダード2,530円、トリプル3,960円(税込)。見たい番組がある月だけ入って、終わったら抜ける。私の家でも、サッカーのビッグマッチがある月は家族の誰かが「今月だけ入ろう」と言い出す。あの「今月だけ」が、WOWOWの商売の入口であり、出口でもある。
金の取り方は、会員からの月額料金が軸になる。番組を作る・買う費用が仕入れにあたる。番組費は2026年3月期で253億8,800万円、単体売上高の40.2%を占める。仕入れが重い商売だ。読む物差しは3つある。累計正味加入件数、会員収入、そして事業収入の比率だ。加入者が減っても、番組以外の売上が増えれば全体は保てる。会社自身が「加入者数の増減に左右されにくい収益構造への転換」を掲げている。2026年3月期の数字は、まさにその転換の途中経過だった。
2本目の柱は事業収入だ。中身は、テレマーケティング子会社のWOWOWコミュニケーションズ、他社コンテンツの制作受託をするプロダクション事業、イベント、PPV(1番組ごとの課金販売)など。NHKの夜ドラ「ミッドナイトタクシー」や、Amazon Prime Videoで配信予定の「クロエマ」は、WOWOWがプロダクションとして受注した作品だ。番組を作る力を、外へ売る商売でもある。
3本目の話が、2026年10月1日に加わった。NTTドコモからエンターテインメント映像コンテンツ配信事業「Lemino(レミノ)」を承継し、ドコモとの合弁会社「WOWOWLemino」を立ち上げた。WOWOWの会員にレミノの会員を足した、新しい加入者の束を作る話だ。ただ、承継の直後に会社が出した数字は、甘いものではなかった。
数字の並びは、会員収入の減少と事業収入の増加が綱引きをした型
売上高は横ばいに近い。2022年3月期796億5,700万円、2023年3月期771億100万円、2024年3月期748億6,900万円、2025年3月期767億5,700万円、2026年3月期771億2,400万円。5年でほぼ動いていない。
中身は大きく入れ替わった。会員収入は2022年3月期662億7,700万円から2026年3月期549億4,700万円へ、4年で113億3,000万円減った。単純計算で17.1%の減少だ。事業収入は同じ期間に133億7,900万円から221億7,700万円へ増えた。売上高に占める事業収入の比率は、2021年度の16.8%から2025年度には28.8%へ上がった、と会社は説明している。月額課金の柱が細り、番組の外注やイベントといった別の売上が補う。綱引きの構図が、数字の上ではっきり出ている。
利益の振れは激しい。営業利益は2022年3月期52億6,800万円、2023年3月期32億2,500万円、2024年3月期14億5,000万円、2025年3月期20億3,600万円、2026年3月期14億7,500万円。2026年3月期の営業利益率は、単純計算で1.9%になる。会員収入が減る中で、番組費や販管費を削っても、利益の水準は戻っていない。
加入者の動きが、その理由を物語る。2026年3月期の新規加入件数は57万1千件で前期比13万3千件減、解約件数は76万4千件で前期比4万8千件減、正味加入件数はマイナス19万3千件、累計正味加入件数は216万7千件だった。2027年3月期の第1四半期(4〜6月)も、正味加入件数はマイナス7万8,872件、累計正味加入件数は208万7,829件まで減った。目的番組が終われば解約が出る。月額課金の宿命だが、減るペースが新規の獲得を上回り続けている。
財務の形は、利益の薄さと対照的に厚い。2026年3月期末で総資産945億4,700万円、純資産695億4,400万円、自己資本比率71.9%。現金及び現金同等物は264億4,600万円で、2026年3月期の営業キャッシュフローは53億3,800万円のプラスだった。借金に頼らず、現金を抱えながら回す体質だ。ただ、会社自身が2026年5月の決算説明会で認めたとおり、2025年度のROEは1.9%で、会社が認識する株主資本コスト7%を下回り、PBRも1倍を上回れなかった。厚い財務と、薄い稼ぐ力。このねじれがWOWOWの今の姿だ。
配当は、3年連続で同じ顔をしている。1株配当は2022年3月期60円、2023年3月期50円、2024年3月期30円、2025年3月期30円、2026年3月期30円。配当性向は2024年3月期77.3%、2025年3月期132.8%、2026年3月期65.5%と、利益の薄い期は性向が跳ね上がる。2027年3月期の配当予想も30円で、2026年10月30日の業績予想修正でも変更されていない。利益が赤字予想になっても、配当だけは据え置く。そこに会社の意思が見える。
なぜ今、これだけ安いのか
株価は、10月30日の発表で一段下がった。2026年10月30日の終値は823円で、前日終値888円から65円安、単純計算で7.3%の下落だった。みんかぶの速報は「年初来安値を連日更新」と伝えている。
下がった出来事は、通期業績予想の修正だ。2027年3月期の売上高予想は745億円から822億円(前期比6.6%増)へ引き上げられた。レミノを連結子会社にした分が上乗せされる。一方で営業損益は7億5,000万円の黒字から52億円の赤字へ引き下げられ、経常損益や純損益も赤字転落の見通しになった。会社が挙げた理由は、レミノ事業の拡大に向けたコンテンツやマーケティング施策の強化への費用投下だ。既存事業はおおむね当初計画通り、と会社は説明している。つまり赤字の理由は、既存の放送が崩れたからではなく、新しい配信事業への先行投資だ。
中間期の実績も、同じ方向を向いている。2027年3月期第2四半期累計(4〜9月)は、売上高356億700万円で前年同期比5.2%減、営業利益12億6,600万円で同22.4%減、経常利益19億5,500万円で同8.7%減、中間純利益9億7,900万円(前年同期14億4,700万円)だった。会員収入の減少が売上を押し下げ、為替差益4億9,400万円を営業外収益に計上しても、営業段階の減益は埋まらなかった。
画面の割安表示は、こう読む。InvestingProの2026年10月31日朝のリストでは、現在株価823円、フェアバリュー1,395.9円、上昇余地69.61%、PER17.95倍、配当利回り3.4%、財務健全性は「良い」だった。ここでPERを自分で割り直すと、話は前期基準でつながる。2026年3月期のEPS45.80円で823円を割ると、単純計算で約18.0倍。画面の17.95倍とほぼ合う。つまり画面のPERは、前期の利益で見た数字だ。今期は営業赤字の見通しなので、このPERが今期の稼ぐ力を表しているわけではない。
PBRで見ると、安さの形がもう1つ見える。2026年3月期末の1株当たり純資産額2,454.15円で823円を割ると、単純計算で約0.34倍になる。会社自身が「PBRは1倍を上回れなかった」と説明しているとおり、純資産の3分の1ほどの値段で取引されている計算だ。現金264億円超と純資産695億円を抱えた会社が、純資産割れで売られている。画面のフェアバリュー1,395.9円との差69.61%は、こうした資産面の数字を映している可能性がある。
仮説として書くなら、市場が値切っているのは今の利益ではなく、レミノへの先行投資の回収の読み方だ。会社はレミノ承継を踏まえた中期経営計画の数値目標として、2030年3月期に売上高1,080億円、営業利益60億円を掲げた。2030年までの4年間で、レミノの赤字がいつ黒字に転じ、WOWOWの会員減をどこまで補うか。そこを市場が測りかねている、という状態に近い。
リスクは、加入者減とレミノの先行投資に集まる
一番重いのは、加入者の減少が止まらないことだ。会社自身が2026年5月に「放送事業における想定を超える縮小という現実を直視する」と述べた。OTT事業者との競争が激しく、新規加入件数は2026年3月期に前期比13万3千件減った。目的番組が終われば解約が出る構造は、番組の当たり外れに業績が引っ張られることを意味する。
次が、レミノの費用投下だ。2027年3月期の営業赤字52億円の見通しは、レミノのコンテンツやマーケティングへの投資が理由だ。投資が先に出て、会員と売上が後からついてくる形だが、ついてくるペースはまだ数字で確認できない。第3四半期以降、WOWOWLeminoの会員数と赤字幅がどう動くか。そこが次の確認項目になる。
あとは番組費の重さだ。2026年3月期の番組費253億8,800万円は、単体売上高の40.2%を占める。スポーツの放映権や大型アーティストのライブ中継は、獲得の武器であると同時に、固定費に近い重さを持つ。会員が減る中で番組費が下がらなければ、利益率はさらに薄くなる。
自分にとっての魅力は、資産の厚みと配当の据え置き、引っかかりは赤字の期間の長さ
自分が引かれるのは3点ある。自己資本比率71.9%と現金264億4,600万円の厚み。純資産の3分の1ほどの値段という、単純計算での安さ。823円という株価は100株でも10万円に届かず、監視しながら小さく始められる大きさだということ。
引っかかるところもはっきりしている。2027年3月期が営業赤字52億円の見通しになったこと。累計加入件数が208万7,829件まで減り続けていること。2030年3月期の売上高1,080億円・営業利益60億円という目標が、4年先の数字でしかないこと。レミノの赤字がいつまで続くか、開示の数字ではまだ読み切れない。
自分なら、いきなり大きくは持たない。次に確認する項目は2つに絞る。第3四半期決算で、WOWOWLeminoの会員数と赤字幅がどれだけ具体的な数字として出てくるか。WOWOW本体の正味加入件数の減少ペースが、第1四半期のマイナス7万8,872件から鈍っているかどうかだ。その2つが確認できるまでは、持つとしても段階に分ける。フェアバリューとの差69.61%は、画面の数字としては大きい。ただ今の自分には、その差よりも、レミノへの先行投資が何年続くのか、そして配当30円が赤字の期にも維持されるのかどうかの方が先に知りたい情報だ。
※免責:この記事はWOWOW(4839)に関する情報提供を目的としたもので、投資の勧誘や売買の推奨ではありません。記事中のフェアバリューはInvestingProのモデルによる推計値であり、将来の株価や配当を保証するものではありません。業績予想を含む将来の見通しは、2026年10月30日発表の2027年3月期業績予想修正(売上高822億円、営業損益52億円の赤字)および中期経営計画の数値目標に基づくもので、実際の結果と異なる場合があります。数値は記載時点の出典資料に基づいています。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。